2009年11月17日火曜日

米国のRCEに関する新規則

米国特許庁(USPTO)は継続審査請求(RCE)に関する新規則を施行しました。

これは審査の促進を図るための措置であり、以前に廃案となった規則のようにRCEの回数を制限するのではなく、RCEがされた場合に審査官が獲得する得点の配分を変更し、審査官に対して審査初期での面接や補正の示唆を行うことについてインセンティブを与えるものです。また、RCEを伴う出願の審査着手の順番を審査官が機動的に変更できるようにしています。

  • 得点配分について
具体的には下記マインドマップを参照して頂きたいのですが、審査官が最初の実体的な拒絶理由通知(First Office Action on the Merit, FOAM/FAOM)を起案したときは、今までよりも多くの得点がもらえるようになります。逆に、第1回目のRCEがされた後にFOAMを起案した場合には、今までよりも少ない得点しかもらえなくなります。第2回目以降のRCEがされた後は、更に得点が少なくなります。また、今までは審査官面接をしても、技術理解に役立つという以外に審査官にメリットはありませんでしたが、今後は審査官面接により得点が得られるようになります。

従って、今後は出願人にRCEを強要して得点を稼ぐのではなく、最初の審査ラウンドで積極的に面接を行い、更に、審査官から積極的に補正の示唆を行うことにより早期に審査を終了させよう(特許査定)というインセンティブが働くようになります。
  • RCEを伴う出願の審査着手の順番について

今までは、RCEがされた出願は「通常補正出願リスト」に掲載され、RCEが審査官に送付されてから2ヶ月以内に着手する必要がありました。しかし、今後は「特別新出願リスト」に掲載されるようになります。審査官は、「特別新出願リスト」の中から少なくとも1ヶ月に2件の最も古い案件を処理しなければならないというノルマが課されますが、その他は審査官の裁量で審査着手の順番を機動的に変更できるようになります。特に、特許査定できる状態にある案件については、出願人からの請求により又は職権で、優先的に処理できるようになります。この際、出願人は面接を請求して特許査定できる状態にあることの理由を説明することが出来ます。これによって、審査に掛かる時間の短縮が期待されます。

しかし、大幅な補正を含む案件などは、後回しにされ、今までよりも審査に時間が掛かることが予想されます。

ただ、RCE後に特許査定できる状態にある案件というのは、今までも特に問題なく短期間で特許査定されていたはずなので、それほど有難みは無いかもしれません。一方で、そもそもRCEをする場合には、軽微ではない補正を伴うはずなので、審査着手の順番に審査官の裁量を許す制度はマイナスの方が大きいかもしれません。



2009年8月23日日曜日

米国におけるクレーム解釈 ― 均等論と審査経過禁反言 


以下の解説を読む際には、クレーム解釈についてのマインドマップを参照のこと。

現在の米国のクレーム解釈において特徴的な点は、「第三者の安全」のための「公衆への公示機能」が非常に重要視されている点である。これは、U.S.C§112の"distinctly claim"という要件に集約され、第三者が自らの製品、行為が特許権侵害になるかどうかの判断を明確に出来ることを要求している。

もちろんこの要件は現在はどの国においても重視されているが、強調のされ方は国ごとに違い、米国においてはアンバランスな程に強調されている。アンバランスとは、特許権者の保護と第三者の保護がアンバランスと言うことである。

クレーム解釈の原則は、いわゆる「周辺限定」主義であり、クレームに基づいて保護範囲が決定される。具体的には、いわゆる「二段階テスト」で決定される。即ち、まずクレームの「文言精査」を行う。文言精査においては、用語の平易な意味及び通常の慣習的な意味を以って解釈し、明細書の定義は辞書の定義に勝る。より抽象的に表現すると、内的記録は外的証拠に勝る。また、文言精査においては、当業者にとってクレームの用語がどのような意味を持つかが判断される。いわゆる「全要素ルール」が適用されるが、これは特許発明の実施と言うためには構成要件の全てを実施する必要があるという日本の解釈と同じである。

文言精査で非侵害と判断された場合に均等が考慮される。均等を認めるのは、端的に言うとエクイティを行うためであり、文言解釈だけだと模倣者による特許に対する詐欺を容認する結果となり、特許権者のための公正さが担保されず、結局、発明の秘匿を招来することになるからである。均等を認めるのは、また、イノベーションの本質を言葉が捉えきれないということに根拠を置いている。

均等と認められるためには特許発明と侵害被疑の物又は方法との相違点が「重要でない変更」である必要がある。これはボールスプライン判決の第1要件に似ている。この重要でない変更を判断するためには、いわゆる「全要素ルール」が適用される。歴史的には「全体としての発明」について判断された時代もあったが、現在は全要素ルールが定着している。全要素ルールにおいては、各要素すなわち発明特定事項について一対一の均等が要求される。各要素については、発明全体におけるその役割、性質、及び機能が考慮されるが、これはボールスプライン判決の第2要件に似ている。また、当該要素が均等と認められるためには、侵害の時において周知の相互置換可能性が存在することが必要である。これはボールスプライン判決の第3要件に似ている。更に、侵害被疑物品又は方法が特許発明の個々のクレーム要素と同一又は均等な要素を含むかという本質的な問いかけに答えるために、特定の特許クレームの文脈におけるそれぞれの要素が果たす役割についての解析を行うべきとされる。このために当該要素が「実質的に同一の機能、手段、結果」を提供するものであるかを検証する、「三つの同一性テスト」が導入されてきたが、これはあくまで便宜的なものであり、必須のテストではないとされる。なお、このテストはボールスプライン判決の第2要件に似ている。

クレームが公衆への公示機能を果たすために、包袋禁反言がアンバランスな程に重視される。包袋禁反言あるいは審査経過禁反言とは、実質的には審査経過における減縮補正を減縮された部分の放棄の宣言と推定することを意味する。禁反言の働く補正とは、特許性に関わる実体的な理由により行われた補正を意味し、新規性、進歩性に限られず、§112の記載要件を満たすための補正であっても禁反言が働きうる。この場合、自発補正と審査官に要求された補正とは特に区別されない。フェスト事件においてはクレーム対象の放棄の宣言が反証可能な推定(柔軟なバー)なのか、それとも、反証不可能な擬制(完全なバー)なのかが問題になったが、反証可能な推定であると言う判断が確定した。即ち、補正がされたクレーム要素について何が放棄され、何が放棄されなかったかについての説明を特許権者が提供できる場合には推定を覆すことが出来る。説明責任は特許権者側にある。例えば、補正時において予見できない対象、即ち、後に出現した均等物については補正をした場合であっても均等が認められる可能性がある。ただし、当該後に出現した均等物が、減縮補正された上位概念クレームに含まれていた場合には、均等論の主張は認められないと思われる。最高裁は、広いクレームを狭いクレームに補正したということは、特許権者がその両方の言葉を知っていて、広い方を放棄して狭いほうを確かに選んだことを意味すると言っているからである。

ここからは私見になるが、審査経過禁反言を考慮する際に、CAFCはクレームの公衆への公示機能を徹底させるために「完全なバー」アプローチを採用したが、最高裁は特許の文脈を越えた禁反言一般の本質から特許権者が実際にクレーム対象を放棄したか否かという実質的な判断を行う「柔軟なバー」アプローチを採用した。

しかし、「柔軟なバー」アプローチであっても、一旦減縮補正をすると禁反言を覆すのは殆どできない。実質的に減縮補正をするのは何らかの特許性に関わる実体的な理由によるものであるのが常だからである。従って、最も広い特許発明の保護範囲を享受するためには、初めから特許要件の全てを満たし、かつ、最大の大きさを持つクレームを起案することが理想となる。従来のように、初めは非常に広いクレームを書き、審査官の指摘に応じてクレームを減縮し、更には無効審判を提起されたら更に減縮するという戦略は結果的に皮肉な結末になる可能性が高い。

クレーム解釈についてのマインドマップ

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2009年7月21日火曜日

生物多様性条約に関するリンク集


特許庁   遺伝資源、生物多様性条約等に関する取組:



財団法人バイオインダストリー協会:



中国特許法(改正)第32条、第122条:

インド特許法第10条(4)(d)(ii)(D)、25条(1)(j)、25条(2)(j)、64条(1)(p):

  • 特許庁 外国産業財産権制度情報(インド特許法)(生物学的素材で検索)

2009年7月20日月曜日

欧州委員会 製薬業界に対する独占禁止法などによる監視を強化


欧州委員会は製薬業界に対する調査の最終報告を発表しました。

報告書(第1部第2部)は数百ページに及ぶ膨大なものなのでフォローできませんが、要約(それでも28ページあります)についてレポートします。 要約の17ページから報告書の結論が書かれていますが、特許に関して注目すべきは、

19ページ下から9-1行目、
With regard to competition between originator companies in particular, defensive patenting strategies that mainly focus on excluding competitors without pursuing innovative efforts and/or the refusal to grant a license on unused patents will remain under scrutiny in particular in situations where innovation was effectively blocked. (先発薬企業間の競争に関しては、イノベーションの努力をすることなく競合相手を排除することに力を傾注した防衛的特許戦略、及び/又は、不使用の特許についての実施権の供与拒否は、特にイノベーションが効率的に妨害されている場合は、監視の対象となるだろう。)

As regards competition between originator companies and generic companies, delays to generic market entry are a particular point of concern. The possible use of specific instruments by originator companies in order to delay generic entry will be subject to competition scrutiny if used in an anti-competitive way, which may constitute an infringement under Article 81 or 82 of the EC Treaty. (先発薬企業と後発薬企業の間の競争に関しては、後発薬の市場参入の遅れが特に問題視される。後発薬の市場参入を遅らせるために先発薬企業が講じる特定の手段は、反競争的なやり方で行われる場合には監視の対象となり、EC条約第81条又は82条の違反となる場合がある。)

20ページ、5-11行目、
Agreements that are designed to keep competitors out of the market may also run afoul of EC competition law. Settlement agreements that limit generic entry and include a value transfer from an originator company to one or more generic companies are an example of such potentially anticompetitive agreements, in particular where the motive of the agreement is the sharing of profits via payments from originator to generic companies to the detriment of patients and public health budgets. (競合他社を市場から締め出すための協定も、EC競業法の違反となる場合がある。後発薬の参入を制限し、かつ、先発薬企業から一又は複数の後発薬企業へと何らかの価値の移転を伴う和解合意は、そのような反競争的と判断される恐れのある協定の一例である。特に、そのような協定の目的が、先発薬企業が後発薬企業に金銭を支払うことにより販売利益を分け合うことにあり、その結果として、患者と公的医療費に損害を与えるものである場合には、反競争的と判断される恐れがある。)

の部分です。

EPCの分割出願時期の制限も、製薬企業による際限の無い分割出願が、後発薬の参入を遅らせていると判断されたことによるものです。

以上

2009年6月26日金曜日

EPの法改正計画(2)

EPOの行政審議会は分割出願の時期を制限することについて合意しました (CA/D 2/09) 。

分割出願が出来るのは、以下の(a)、(b)いずれかの場合に限られます。

(a) 分割出願から見て親の又は更にその親の出願において最初の拒絶理由通知を受けてから2年以内にする場合(CA/D 2/09, Article 1, Section 1(1)(a))

(b) 上記(a)の後に、単一性違反の拒絶理由が通知された場合は、それが最初に取り上げられた拒絶理由通知を受けてから2年以内にする場合(同上、Section 1(1)(b))


この分割時期の制限は、2010年4月1日以後に出願される分割出願に適用されます(Article 2, CA/D 2/09)。 これによると、最も早い親出願において2008年3月31日以前に最初の拒絶理由通知を受けている場合には、2010年4月1日以後に自発的な分割出願が出来る場合は無いということになりますが、経過措置として、分割出願をするための最低6ヶ月の期間が与えられます(同上、Article 3)。例えば、2008年3月15日に最初の拒絶理由通知を受けている場合には、2010年9月31日までは自発的な分割出願ができます(条文上は2010年4月1日から6ヶ月なので2010年10月1日までのはずですが、早めに考えておいた方が良いでしょう)。2008年4月15日に最初の拒絶理由通知を受けている場合にも、2010年9月31日までは自発的な分割出願ができます。

http://www.epo.org/topics/news/2009/20090403.html

2009年6月11日木曜日

EPの法改正計画について

EPの法改正計画についてアナウンスがありました。
詳しくは下記リンクを参照してください。

施行時期は2010年春の予定

改正事項は、

1. サーチをする前に特許請求の範囲の明確化を図る
 サーチする独立請求項の数に上限を設ける。審査官が先行技術調査をする前にクレームを明確にさせることが出来る。焦点の合ったサーチを可能にし、重要な書類の紛失を防止するため。
2. サーチレポートに添付された審査意見に対する応答を義務付ける
 審査前に出願人が応答することにより、出願人は審査意見を6ヶ月間熟考することになり、適切な対応が出来るようになる。
3. 自発補正は一回のみ
 サーチレポートと添付の審査意見を受け取ったら、一回だけ自発補正が出来る。これにより、審査過程の初期に注意と活動が集中され、特許査定までに必要な応答書簡の平均回数が減る。
4. 補正の根拠を示すことを義務付ける
 誰よりも出願人が補正の根拠を良く知っているはずなので、出願人に義務付ける。

です。
1.の「独立請求項の数に上限を設ける。」と2.の「サーチレポートに添付された審査意見に対する応答を義務付ける」が特に影響がありそうです。3.は、今まで応答期間に何度も補正書を出していた出願人には影響がありますが、通常の場合は特に影響なさそうです。4.は当然やるべきなので問題ないと思います。


http://www.epo.org/topics/news/2009/20090424.html

以上